『すぐに役立つモンゴル語会話』番外編
モンゴル草原の国だより Vol.9
モンゴル人の名前は奥深い 文:津田紀子
テンブックス刊行の「すぐに役立つモンゴル語会話」の編集をしてくれた 津田さんに、モンゴルの文化や生活、気になるトピックスを紹介してもらう コーナーです。 みなさまからのご質問もお待ちしています。 >>mongol@ten-books.jp

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今回はモンゴル人の名前についてご紹介したいと思います。

■ モンゴル人の名前のしくみ

モンゴル人の正式な名前は、父称(父親の名)+(本人の名)の3つからなっています。

ただ、このように決められたのは、ほんの数年前のこと。

社会主義時代には、姓はなく、父称+名が用いられていました。

モンゴルでは、もともと姓があったそうなのですが、1925年に、氏族をあらわす姓は民族主義的であるという理由で廃止され、かわりに父称が導入されました。

それ以来、父称+名が使われてきたのですが、1999年に姓を復活させることになり、今では、皆、姓をもつようになりました。しかし、長年の習慣のせいか、日常生活の中では、姓はほとんど使われておらず、あいかわらず父称+名が用いられています。

たとえば、横綱の朝青龍は、モンゴルでは「ドルゴルスレン・ダグワドルジ」と名乗っていますが、このうち「ドルゴルスレン」が父称(父親の名)、「ダグワドルジ」が名(本人の名)です。

これを姓+名と勘違いして、「ドルゴルスレンさん」と呼びかけてしまうと、別人(父親)の名を呼んでいるというおかしなことになってしまうので、注意が必要です。

ちなみに、父称は基本的には実の父親の名をつけるのですが、父親に認知されていない場合は、母親の名を名乗ります。

また、両親が離婚して母親に引き取られ、その母親が再婚した場合、新しい父親の名に変える人もいれば、そのまま以前の父親の名を名乗っている人もおり、 どちらを名乗るかは自分たちで選択できます。自分の実の父親の名を名乗るわけですから、結婚によって名前がかわることはありません。

■ 好きな名前を名乗れる?

さて、姓についてもう少し付け加えますと、モンゴルでは、姓はそもそも氏族名を表すものでした。1999年に姓を復活させる際、ほとんどの人が、世代を経て、かつての姓(氏族名)がわからなくなっていたので、自分の好きな姓を名乗ることになったのだそうです。そのなかでもチンギスハーンの氏族名である「ボルジギン」姓は、かなりの人気を集めたとか。

まったく新しい姓をつくってもよく、「ノゴーン・モリ(緑の馬)」という自分の書いた文学作品の題名をそのまま姓にした作家もいれば、モンゴルの宇宙飛行士グルラクチャ氏(1981年旧ソ連のソユーズで宇宙へ)は、「サンサル(宇宙)」という姓をつけたのだそうですよ。

これらの姓は、国民の身分証明書に記載されているそうですが、日常生活では、ほとんど使われていません。

せっかく作った姓、今後はどうなっていくのでしょうか。

■ いろいろな名

モンゴル人の名は、モンゴル固有の名のほか、宗教(ラマ教)を通じて関係の深いチベット語やサンスクリット語起源の名も数多くあります。

旭天鵬の本名である「ツェベクニャム」、朝赤龍の「ダシニャム」などは、チベット起源の名です。

また、モンゴルには、ちょっとびっくりするような変わった名があります。

たとえば、

フンビシ……人でない   ネルグイ…名なし
メデフグイ…知らない   エネビシ…これでない
ノホイフー…犬の子    ホルホイ…虫        など

かつてモンゴルでは、乳幼児が死亡するのは悪霊のせいだと考えられており、病気や災いをもたらす悪霊から子供を守るために、このような名をつけるようになったそうです。

「人でない」「犬の子」などと名乗ることで悪霊を欺き、取り憑かれないようにする、というわけです。

とくに幼い子供を亡くした場合、その次に誕生した子供に、このような名を付けることが多かったとか。

日本人の感覚からするとびっくりするような名ですが、じつは、子供がスクスク健康に育つようにという親の願いが込められているのです。

もちろん、とても美しい意味を持つ名もたくさんあります。
たとえば、

オドンチメグ……星の飾り    オユントゥルフール…知恵の鍵
アリオンゲレル…清らかな光  ムンフジャルガル…永遠の喜び  など

発音は難しいのですが、とてもきれいな名だと思いませんか?
モンゴル人の名前は長いものが多いし、日本人には覚えにくくて大変なのですが、由来や意味を知ると奥が深くてなかなか興味深いものです。

それでは今回はこのへんで。

バヤルタイ。