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続・釣った魚は何でも旨い --第25回--(タコ) 文: 山川 洋 作者にメールを送ります
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 ワッセ、ワッセと重たいリールを巻いていたら、目の前の海に赤黒いコウモリ傘のようなものがゆっくりと浮いてきた。
「何だ?」と目を凝らしてよく見ると、タコが逆さまになって水面で足を動かしている。
 投げ釣りの竿にタコが掛かったのだ。
 しかも1キロはゆにありそうな大ダコである。
 針は八本足の中心にある口にがっちりと掛かっているようだが、このまま抜き上げるには重たすぎてとてもハリスがもたない。
 また、竿の弾力を最大限に利用しようとすれば、もっと竿を立ててタコを岸に引き寄せなければならないが、すると岸壁に貼り付かれるおそれがある。いったん貼り付かれてしまったら万事休す。そうなれば、タコは足の一本や二本ちぎれようとも絶対に上がってこない。
 こうした場合は、タコを回りに吸いつく物のない水面に浮かしておいて、タモですくい取るのが常道である。だが、まさかタコが釣れるとは思わないので、玉網は折りたたんで仕舞ったままである。
 タコを吊り下げたまま困っていると、隣の釣り人が応援を買って出てくれた。
 感謝しながら竿を託すと、大急ぎで玉網を組み立てる。
 準備不足を戒めるものとして、泥棒を捕えてから縄を綯う「泥縄」ということわざがあるが、私の場合はタコを釣ってから網を継ぐ「タコ網」ということになる。
 急がないと、今にもタコは八本足でハリスにからみつき、糸を切って逃走しそうである。
 なんとか網を組み立て現場へ戻ると、タコはまだ水面でクネクネしていて、無事ゲットすることができた。
 さて、無事ゲットしたまではよいのだが、タコのほうではゲットされたという意識がない様子で、その場にじっとしていることはなく、今度は岸の上をズルズルと這い始めた。
 タコは目と目の間を突き刺して締める、と本に書いてあったのを思い出し、ポケットナイフを取り出す。タコは猫の目のような縦長の瞳を持っており、ちょっと不気味な感じもするが勇気を出してプスリと刺してみた。
 ところが、話と違ってタコは全然締まらず、逆に吸盤のある何本もの足で手にからみついて反撃してくるではないか。
 私がへっぴり腰でタコと格闘しているのを見かねたのか、件の釣り人が「タコは頭をひっくり返せばイイんだよ。ホラッ」といいながら、タコの頭の部分を裏返してくれた。すると、先ほどまで元気に暴れていたタコが急に力を失い、クタッとなってしまった。
 こうなればノープロブレムである。
 ビニール袋に押し込んで、氷水の入ったクーラーボックスへと収納する。
 親切な隣の釣り人は、タコの調理法も詳しく教えたくれた。
 さっそく家へ取って返し、実行に移す。
 まず、裏返しになった頭から露出している内臓を切り取る。(タコの頭は本当の頭ではなく、中に内臓が詰まっている)
 そして、タコをボールに入れ、粗塩をたっぷりと振りかけて揉む。
 これがまた力技で、揉めば揉むほどタコの表面のヌルや汚れが薄黒い泡となって、ボールいっぱいに膨れ上がってくる。水道で洗い流したら、再度粗塩を振りかけて揉み込むと、また同じように泡が出てボールいっぱいになる。
 これを根気よく何度か繰り返すと、やがて触った感じがヌルヌルではなくツルツルのタコになる。
 これで塩もみが完了である。
 あとは流水でよく塩を洗い流し、番茶をひとつまみ入れたたっぷりの湯で茹で上げる。
 タコをぶら下げて、足先のほうからチョイチョイと徐々につけてゆくと、足がきれいにクルリと丸まって見栄えよく茹で上がる。茹で加減は好き好きだが、多少生っぽいのがよければ5分も茹でればよいだろう。
 ザルに上げて粗熱を取って、これでやっと魚屋で見かけるゆでダコになる。
 まだホンワカ湯気の立っている足を一本切り取って、丸かじりをしながら立ったまま缶ビールを喉に流し込むと
「クーッ、ウ・マ・イ!」
 桜色に茹で上がったタコは歯先でプツリと噛み切れ、芯の部分はまだ半生の状態である。
 ゆっくりと噛みしめると、吸盤のプチプチとした歯ざわりと共に、シコッとした白い身肉からは芳醇な旨みが溢れてくる。それは明らかに魚とは異なる種類の旨みである。
 淡白さの中に、遠い昔にタコが貝類から分派し、進化してきた歴史の長さを感じさせる。
 さらっとした透明感を持ちながら、しかしはるかな深みと厚みのある味わいでもある。
 こんな書き方をすると、若い読者の方の中には
「言ってることが、なんかカッタルくて、だいたい意味がよくワカンネーし」というようなご不満をもたれる方もいらっしゃると思いますので、再度タコの美味しさが分かるように伝え直させていただきます。
「ヤベー、リアルにガチウメーヨ。ハンパネー!」
 はい、これで若い方にもタコの旨さが、余すところなくお分かりいただけたことと思いますので、オシマイ。

11/22/2008


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